俺たちに明日はある

 春とディテールの話。
  
 前髪をめくる風も、日向で浴びるには心地よくなってきた。花粉さえなければなぁとは思うけど、寒いより暖かいほうが何倍も過ごしやすい。えりあしに手櫛が通りにくくなってきたから、美容院の予約を入れた。
 
 大学に入って丸六年も経つと思うと、あらためてそのあっけなさにびっくりする。かけがえない当たり前を今更惜しむあたり、僕も人並みに愚かだ。楽しいね幸せだねって、毎日自分に言い聞かせる気にはならない。でも、言わずもがなで済ませるのももったいないと思う。切実な一瞬が日常に吸い込まれていくのを真っすぐ見届けるには、人の頭は覚えが悪い。ハイライトに収まりきらない些細な仕草に、本当に残しておきたいなにかが詰まっている。