染まるよ

 煙草の話。

 煙草の魅力の八割は「煙が漂う」ことにある。紫煙が浮かび消えるのを眺めていると、色々どうでもよくなる。喫煙者が惚けた顔をしているのは、吸気に酩酊しているからではない。流れ行くもやを眺めているのだ。(顔をしかめている場合、副流煙が目に沁みているんだと思う。あれ、吸ってても痛いんです。)

 政権が変わる度に煙草の増税が話題になるけれど、個人的にはどんどんやって頂いて構わない。僕は、1箱1000円になれば、1箱1000円なりの吸い方をするだろうし。1本50円と考えれば、1日2本くらいのペースが適正かな。僕を含め多くの喫煙者は、安いデカダンスの雰囲気に酔っている。値上げは喫煙者のマゾヒズムを刺激し、ロマンティックな愚か者共は草の筒に一層の忠誠を誓うだろう。

 どうせ1箱1000円にするのなら、現在の値段との差額を丸ごと震災復興に充ててしまえばいいと思う。緩やかな死を望んで毒煙を吸い続けるボンクラたちに、肺を汚す口実を与えてやればいいのだ。僕も諸手を挙げてその列に加わりたい。

 そうそう。パッケージに「喫煙はあなたの健康を云々」という文言を記載するのは即刻やめて欲しい。ああいう注意書きをどこにでも書き散らかすのは、野暮ってやつだ。