ミラージュ

 散歩の話。

 ふと思い立って、駒場キャンパスから六本木ヒルズまで歩いてみた。無理矢理巻き込んだ同期と後輩にお詫び代わりのホッカイロを渡して、15時前にてくてくと大学を出発。
 
 旧山手通りを直進して、国道246号線にぶつかる。道玄坂に平行して、渋谷の谷を下る。南口バスターミナルを横目にガード下を抜けて、六本木通りへ。首都高速3号線を仰ぎ見ながら歩くこと少し、僕たちは迷子になることもなく、六本木ヒルズに到着した。所要時間は1時間ほど。道中はくだらないことを話して、おしゃれな飲食店のメニューを順繰りに眺めていたらあっという間だった。コーヒーを一杯飲んで小一時間だべって、帰りの電車に揺られること20分弱。散歩のおかげか、足が少し痛い。

 たったの数時間で、冬の景色は大きく様変わりする。夕日と東京タワーが輝く赤、のんびりと飛ぶ雲の白、頭上に差す黒、列を作る車の黄色。高台から見える風景を、本当はずっと眺めていたかった。

 世間話の隙をついて、街はあっという間に色味を失った。視界を占拠する紺色に、気分を引っ張られる。もっとよく見つめておけばよかった。大切な一瞬、僕はいつも間抜けな顔でよそ見をしている。