おやすみなさい

 夜の話。

 夜は静かだ。雨どいを伝う水の音、押し込んだキーボードが跳ね返る音、昼間に聞こえない音が我が物顔で部屋に響いている。コンタクトを外した視界はぼんやりとしていて、部屋の端に積んだ本の題名がよく見えない。狭く暗く静かになった部屋で、内省するなというほうが無理な相談だ。
 
 夜が好きだという話はよく聞くけれど、昼が好きだという話は聞いた試しがない。ひねくれ者ほど声が大きいのかもしれない。夜更かしが苦手な僕は、おやすみからまどろみまでの数十分で、頭のなかのごちゃごちゃを文字に起こす。言葉にならないものを無理矢理言葉に押し込める、そんな野暮な真似も、静かな夜なら見逃してもらえるような気がして。