由比ガ浜カイト

 線路と海の話。

 目前の雑事を必死に打ち返すばかりだと、半歩引いた視座がどこかにいってしまう。線路をぼんやりと眺めていると、現実から3センチくらい意識が後退する。視界の端から端まで続く電車の通り道は、規則性とか正しさとか、そういう日々忘れがちな良きことと固く結びついている。線路はいい。

 高校生の頃、仲良しの友達を誘って江ノ電に乗った日のことを折に触れて思い出す。オフシーズンの海は灰色に近い緑で、白い泡が波間を這っていた。いつまでたっても変わらない風景を横目に、ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、海と似た色の砂浜を歩いた。
 
 繰り返し、ただそこにあるものでも、つまらないと感じるものもあれば、尊いと信じられるものもある。これは、と思ったものくらいには、常に柔らかな目を向けていたい。とても難しいことだけれど。