『魔法少女まどか☆マギカ』を紹介します

 まどマギの話。

 先週の土曜日『魔法少女まどか☆マギカ』(以下、まどマギ)の劇場版を前編・後編と連続して観てきました。テレビアニメ版の再編集ということもあり、新展開は次作に持ち越されました。とはいえ、映画館の熱気はすごいものがあり、初めて『まどマギ』を観たときの感覚が蘇りました。『まどマギ』は、一見敷居が高いようにみえますが、寧ろ普段アニメを見ない人こそ楽しめる、普段アニメを見ない人にこそ見て欲しい、そういう作品です。なので、視聴にあたって妨げにあるであろういくつかの要素について、簡単にくっちゃべってみたいと思います。このエントリを読んで『まどマギ』に興味をもってくれたら嬉しいです。
 説明をするうえで、必然的にネタバレを含むことになるとは思います。ですが、それが気になるくらい『まどマギ』に興味津々な人は、僕のブログを読まずに劇場orTSUTAYAに走ってくださいwもっとも、このエントリを読んだからといって、視聴の興が削がれることはないと思います。

 『魔法少女まどか☆マギカ』は、2011年1月から放映されたテレビアニメです。全12話というコンパクトな構成ながら、周到に展開されるハードなストーリー、魅力的なキャラクターといった要素で人気を博しました。

 【非常に簡単なあらすじ】
 中学校二年生のまどかちゃん(基本的に無能)のところに、キュウべえと名乗るウサギ的な生き物が現れます。キュウべえは「おいまどかバカヤロー、貴様の願いをなんでも叶えてやるから、魔法少女になって魔女と戦わんかいコノヤロー」と、おいしそうな話を持ちかけてきます。しかし、どこからともなく現れた魔法少女、ほむらちゃん(黒髪ロング無愛想)は、まどかを魔法少女にしたくない模様。まどかの運命やいかに!?
 
 詳しい説明や批評家の皆さんによる評価はwikipediaを参照してもらうとして(すごく充実しているので、詳しく知りたい人にはオススメです)、僕なりに、なぜ『まどマギ』が普段アニメを見ない人に勧められるかを説明します。

 思うに、近年(ここ10年くらいのイメージです)のアニメは、アニメを構成する特定の要素を強調する傾向にありました。大別すると、こんな感じです。あくまで私見

(a)キャラクターの魅力を強調する
 (例:『けいおん!』『テニスの王子様』)
(b)難解な設定・ストーリーで興味を惹く
 (例:『攻殻』『東のエデン』)
(c)絵が動く快楽を追求する
 (例:ジブリ映画全般)

 それぞれのジャンルはそれぞれに魅力的な作品群を生み出してきましたが、先鋭化した故の弊害も生じたと思います。例えば、(a)の類の作品は、キャラクターに思い入れがある人には麻薬的な快楽をもたらしますが、刺激的なお話を求める人には食い足りません。(b)の作品群は、設定やストーリーを理解するのに時間がかかるため、必然的に敷居があがります。(c)のジャンルは、アトラクションとしては興味深いものの、どうしても「誰がなにをしたのかがよくわからないまま全てが終わる」という感覚を観客に与えてしまいます。誰か僕に『崖の上のポニョ』のストーリーを解説してください。
 
 このように、アニメの特定の要素にフォーカスすると、必然的に他の要素が後回しになり、結果的に視聴者を限定する羽目になります。その点『まどマギ』は、こうした要素がバランスよく高い水準に保たれています。『まどマギ』アニメの持つ多様な魅力が一度に味わえる、とってもお得な作品だと思います。そこで、「キャラクター」「設定・ストーリー」「ビジュアルイメージ」の三つに分けて『まどマギ』の興味深い点、こんなところに注目して欲しい点を挙げていきます。

 【キャラクターについて】
 『まどマギ』には、非常に少数のキャラクターしか登場しません(理由は後ほど)。見ていて誰が誰だか混乱することは特にないと思います。
 もっとも、髪の毛の色が奇抜だったり、輪郭がホームベース状だったりと、普段アニメを見ない人には戸惑いを覚える表現が沢山あります。ちょっと気持ち悪いなと思った方も、ここはひとつだまされたと思って我慢して観てみてください。アニメ(漫画もかな)を見る上で重要な意識として「見立て」があります。つまり「この奇妙な見た目の生き物、これは人間を表しているのだな」というつもりで観る、ということです。アニメを見ていると、どうしてこんな見た目のキャラクターに感情移入できるのだろうと、我ながら不思議に思うことが多々あります。『まどマギ』のキャラクターにも、その感覚をよく抱きます。
 キャラクターデザインにとっつくにくさを感じてしまった人は是非「見立て」の意識をもって観てみてください。キャラクターに感情移入させるのは作り手の腕の見せ所ですし、面白いコンテンツに感情を引っ張られるのは気持ちのいいものです。魔法少女は全部で5人程出てきますから、お気に入りのキャラクターを見つけるのも面白いかな、と思います。僕はさやかちゃん派です。

 【設定・ストーリーについて】
 まずは設定について。『まどマギ』は、タイトルにある通り、所謂「魔法少女モノ」のひとつです。魔法少女モノで有名な作品は、『魔法使いサリー』『セーラームーン』『プリキュア』などなど。誰でも子どもの頃にこうした作品に一度は触れたことがあると思います。ちなみに僕はセーラームーンは一話から最終話まで全部通して観てます。マーキュリー派です。
 「魔法少女モノ」には、いくつかのお約束があります。
・少女が主人公であること
・少女が何らのアイテムを用いて変身すること
・少女のパートナーとして、マスコットが登場すること
 大体こんなところでしょうか。『まどマギ』も、この構造を忠実になぞっています。5人の主要キャラクター(まどか、ほむら、さやか、マミ、杏子)はみな10代前半ですし、魔法少女の証として「ソウルジェム」という宝石のようなものが出てきます。あらすじで出てきた「キュウべえ(通称QB)」が、マスコットにあたります。この辺り『まどマギ』は、非常にオーソドックスに魔法少女モノのルールをなぞっています。
 ところが、基本に忠実な設定とは裏腹に『まどマギ』のストーリーは「魔法少女モノ」のスタンダードからは大きく外れています。物語のトーンは暗く、展開はかなりハードです。サスペンス的であると言えます。非常に興味深いのは『まどマギ』は「魔法少女モノらしくない」のではなく「とても魔法少女モノらしいのに、異様」なところです。なぜならば、お約束は一つも破られていないからです。一般的に認識されているお約束を忠実に踏襲しながら、それら全てを悪用する、とても意地悪な物語だと言えるでしょう。
 『まどマギ』を見る際には、是非頭のなかに「セーラームーンって、こんな話だったよなあ」というぼんやりしたイメージをもって観てみてください。確実に度肝を抜かれると想います。「設定の裏をかいてくる」のが『まどマギ』の魅力です。

 【ビジュアルイメージ】
 ここまで読んでくれた方のなかには「よっしゃ、ちょっと見てみるか」と思ってくれる方もいるかもしれません。ですが、いざアニメが始まってみると、かなり奇妙な世界が広がっていて、戸惑ってしまう可能性があります。というのも『まどマギ』の世界は
・発話する登場人物以外、人間がほとんど出てこない
・同じ建物が繰り返し登場する
・ビルや校舎が異様に高い
・非現実的な風景
といった、現実世界(や、一般的なアニメ)とかけ離れた見た目だからです。個人的には、こうしたビジュアルイメージの特異さが、初見の人には一番気になるんじゃないかな、と思います。
 馴染みのあるアニメ、例えばドラゴンボールを思い浮かべてみてください。ドラゴンボールでは、本筋とは関係ない群集、道行く人もしっかりと描かれています。勿論「人気のないところで戦う」というシーンはありますが、それには必ず合理的な理由があります。ドラゴンボールにはロードムービーの側面もあるので、場面展開も多いです。悟空はすぐ飛ぶし。建物のデザインも、統一感が保たれています。
 ところが『まどマギ』はそうではありません。『まどマギ』の場合、前述した主要な人物たちと、彼女たちに関わるごくごく少数の人々以外、人がほとんど登場しません。登場しない、というのは、背景として描かれている、という意味ではなく、文字通り画面に現れていない、という意味です。申し訳程度に、時折「クラスメイト」「街の人々」が描かれますが、ほとんどの場面において「群集」「通行人」は登場しません。まるで『まどマギ』の世界には、魔法少女たち以外の人間が殆ど存在しないかのようです。
 同時に『まどマギ』では、同じ場所・同じ構図のシーンが連続することにすぐ気づくと思います。例えば、まどかちゃんとさやかちゃんが相談事をするのは、必ず校舎の屋上です。二人が食事をするシーンで描かれるファストフード店も、毎度同じ場所、同じ席です。通学路も、まったく同じ場所・構図が、何度も描かれますそして、そして、それらの場所のどこにも、彼女たち以外の人はいません。
 関わりのない人間が出てこない『まどマギ』の世界において、逆に存在感があるのは建物を含む風景です。ビルひとつとっても、非常に特徴的な描かれ方をしています。とにかく高い。窓がたくさんあります。そして、ドアがかたく閉じられています。その他にも、異様な風景(角地に建った豪邸、床がスッカスカの歩道橋、など)がたくさん登場するので、何の気なしに見ると面食らいと思います。
 こうした奇妙な風景描写は、すべて「登場人物の心象風景」だと解釈すれば、合点がいくと思います。道行く人が一切描かれないのは、彼ら/彼女らが、まどか達の意識の外にいるから。同じ場面が連続するのは、そこがまどか達にとってお馴染みの場所で、中学生であるまどか達は、街の中でも限られた一部分しか認識していないからです。彼女達が立ち入ることのないビルは、実際以上に高く感じられているのです。
 つまり、この作品を見るときは「物語を見ている、客観的な自分」を意識すると、あまりうまくいかない、ということです。少なくとも、上に挙げた特徴的なビジュアルイメージに慣れていない人は、一歩引いた目で見ると、ストーリー以上に突っ込みどころが気になってしまうと思います。『まどマギ』は、徹頭徹尾、魔法少女達の物語です。世界観も、その描かれ方も、すべてが彼女達に奉仕しています。なので、奇妙な絵に面食らってしまいそうなときは「ああ、まどか達には、こんな風に世界が見えているんだな」と思ってあげると、理解しやすいかもしれません。

 【まとめ】
 長々書いてきましたが『魔法少女まどか☆マギカ』を見るうえで意識するといいポイントは、以下のふたつです。
・アニメが「見立て」のエンタメであることを念頭に置く。
・「魔法少女モノ」が、王道から外れていくのを楽しむ
この2点を頭の隅においておけば、きっと楽しく観られると思います。劇場版でもTV版でもどっちでもいいとは思いますが、お手軽なのはTV版だと思います。外に出るのが億劫なお休みの日にでも、是非どうぞ。