約束

 関係性の話。

 中学生の頃、朝の会で一枚のプリントが配られた。全校生徒を対象としたアンケートらしい。趣味は。睡眠時間は。習い事はしているか。家族とは話すか。ありきたりな質問に続いて、仲の良い友達を三人あげろ、という項目があった。いじめが社会問題化したご時世も手伝ったのだろう、学校は生徒の交友関係を把握したがっているようだった。

 些細な質問のせいで、クラスの雰囲気がささくれた。休み時間は、プリントの話題で持ち切りだった。Aは誰の名前書いたの?わたし、Bの名前書こうかな。俺、お前の名前書くから、お前も俺の名前書こうぜ。

 憎たらしく成長したとはいえ、まだ幼かった僕は、居心地の悪さを感じながらも友達と示し合わせて空欄を埋めた。お互いのプリントを突き合わせて、自分の名前が相手の紙に収まっていることに、とても安心した。名前を書かなかった大勢の友達に申し訳ないと思ったけれど、僕はその気持ちを握り潰した。当時の僕は怖かったのだ。誰にも友達だと言ってもらえないことに。仲間はずれにされるのが、恐ろしくて仕方なかった。誰かに友達だと認めてほしかった。

 当時の僕は、それが無理な相談だと理解するには子ども過ぎた。せきたてられるようにプリントを書き進めた自分に、心から同情する。あのプリントを作った奴は、人間の屑だ。僕はそいつを心から軽蔑している。誰が作ったかは、結局分からずじまいだけれど。

 暗がりを光で塗り潰すことはできない。約束は誰も縛らない。どれだけ丁寧に宛名を書いても、手紙が正しく届く保証はない。だから、僕は目を離せば消えてしまう薄い線を、繰り返しなぞる。誰にも頼らず、求めず、期待せずに。自分の手で、どうか届いてほしいと、祈りながら。