透明人間

 
 都会の話。

 車線が多い道路の両側に大きなビルが居座っている、生活感のない町並みが好きだ。ご近所付き合いも皆無だし、スクランブル交差点も怖がらずに渡れるし、我ながら都会の生活に馴染んでいるなと思う。

 人の流れにうまく乗れると、不思議な安心感がある。機敏な店員さんにお客様扱いされるのも、なかなか心地よい。名前のある個人で居続けるのは、息苦しい気がする。有名人になることと、田舎暮らしをすることは、案外似ているのかもしれない。下の名前は、ときどき柔らかく呼ばれるくらいがちょうどいい。